その一環として、先月、第13回 統計教育の方法論ワークショップに参加してまいりました。このワークショップでは、国内、海外を含む統計教育の内容を検証し、今後どのような対応をすべきかを議論する場になっています。
中でも、「新潟県の統計教育のあゆみ ~70年の歴史と今後の課題~」を大変興味深く拝聴しました。新潟県は日本の統計教育の先駆けだったことをご存じでしょうか。今回のご講演で、このことを初めて知り、統計教育に携わる一人として感動する思いがしましたので、ニュースレターをお読みの皆様にも紹介させていただきます。
内容は、新潟県総務管理部統計課 大関様によるご講演と「統計教育実践研究 第9巻 統計数理研究所」の冊子からの抜粋になります。以下、ご紹介いたします。
今日の日本での統計教育は昭和22年から始まったと言われています。
その前年の昭和21年に、アメリカ合衆国統計使節団団長のライス博士が日本の統計の整備や復活を目的に来日しました。 ライス博士の報告書では「統計的なものの見方・考え方を子供の頃から身に付けさせ、これを日本人の第二の天性たらしめよ。それを可能にするのは統計教育である」と書かれているそうです。
新潟県では、昭和22年に「統計指定学校制度」を発足させました。「統計指定学校制度」は、学童への統計思想の啓培、学童を通じた家庭社会への統計思想の浸透を目的としていました。「統計指定学校」は、昭和23年に名称を「統計協力学校」と改め、新潟県の小学校18校、中学校4校に設置されました。
昭和25年には、統計協力学校の高田市の小学校にて、統計協力学校以外も含め約200名の教員が参加して、第1回統計教育研究発表会が開催されました。 昭和29年の第5回の参加者は約800名(県外から約250名)にまで増加し、あたかも全国大会のような盛況を呈したとの記録が残っているそうです。
統計図表展示会では、生徒児童による図表を使った研究発表もあり、文部大臣賞、県知事賞などの各種賞も創設されました。財団法人全国統計協会連合会が初めて統計図表全国コンクールを開催したのは昭和28年とのことですから、新潟県は、そのコンクールにおいても全国に先駆けて取り組みを行っていたことになります。
ちなみに、現在では、統計グラフ全国コンクールという名称になっており、略して、グラコンと呼ばれています。インターネットで検索すると、グラコンに出品された生徒児童の作品を見ることができます。受賞した作品の中には、郷土のことを深く思い作られた作品もあり、一見の価値があります。
今回の統計教育の方法論ワークショップでも、事例がいくつか発表されていました。 新潟県が統計教育の先駆けとなった理由は、教職経験を有し、新潟県の統計課で編集係長を務めていた相馬龍一氏の影響が大きかったとのことです。
相馬氏は、全国初の統計教育制度の創設に寄与し、以後、県を退職されるまでの約15年間、統計教育の推進に尽力され、統計界のノーベル賞ともいわれる大内賞を受賞されています。 また、新潟県からの要請を受け、当時の総理府統計局から派遣された技官の近藤次郎氏からの協力も大きかったそうです。
派遣後、近藤氏が新潟県の授業を参観した際、「教師自身が統計教育に興味を持ち、生きた数字についての知識を持つことが必要であると考え、数表やグラフを見てものを判断することの重要性」を説明されました。その後も、近藤氏は継続して講演などを行い、新潟県の教育現場に多くの示唆 を与えています。
近藤氏が国産旅客機「YS11」の設計に携わっていたことは、よく知られています。私自身、学生時代に航空宇宙工学を専攻したこともあり、先生のお名前は存じ上げていましたが、統計教育にも貢献されていたことは初耳でした。
さて、新潟県における統計教育は、一時は勢いを失った時期もあったようですが、現在は、統計教育事業の助成金交付を実施しており、また小学生向けのホームページで「統計グラフで見る新潟県」として土地、気象、人口などの統計データ、グラフが紹介されています。
「統計出前授業」では、統計の普及・啓発を図るため、新潟県の職員の方を派遣して、統計データの読み取りやグラフ作成のポイントなどを習得してもらうことを目的に授業を実施しています。今回のご講演の質疑応答では、他の自治体の方からこの出前授業について質問がありましたので、各自治体でも、統計教育への関心が高まっているのではないかと感じました。
一方で教育現場に目を向けると、数年前から、学習指導要領には「データの分析」が導入されており、高校では、統計やデータ分析について教わる機会が増えました。大学の統計学の先生方が集まる委員会などでも、統計授業の学習支援計画書(シラバス)の作成について、活発な議論がされています。 新潟県や各自治体の活動、またこのような統計の授業をきっかけに、データやグラフをもとにした客観的な思考、仮説検証ができる児童生徒が増えていくことを願っていますし、今回のご講演を拝聴して、私も統計教育に従事する一人として、微力ながらも世の中に貢献できればという思いを新たにいたしました。
[ From S.Yukutake ]
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